Ewing肉腫ファミリー腫瘍
ユーイング肉腫は,主として小児期から青年期にかけて,骨(まれに軟部組織)に発生する腫瘍です。ユーイング肉腫は,小児に発生する骨腫瘍では骨肉腫に次いで2番目に多いものです。昔は骨に発生した小円形腫瘍細胞(古典的Ewing肉腫)と呼ばれていましたが,最近の染色体分析や分子生物学の進歩によって,未分化外胚葉腫瘍(PNET),アスキン腫瘍(胸壁に原発するPNET)には,共通の染色体異常があることが明らかになりました。これらは同じ病気の仲間としてユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)と呼ばれるようになっています。
特徴
- 主に小児から若年成人に発症します。発症年齢の中央値は15歳で,10歳代が2/3を占め,5歳から30歳までで90%を占めるが,乳児や40歳以上の報告もあります。
- 発生頻度は,米国では小児から若年成人100万人に対して1〜2人程度と言われています。一方,日本では,日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会の集計によると,2006から2017年にかけて総数644例(1年に54例)でした。
- 発症部位は骨が75-80%を占めています。また骨肉腫と異なり,長管骨では骨幹端部より骨幹部に発症することが多いです。
- 部位として骨盤(25%),大腿(16%),脛骨/腓骨(14%),胸壁(12%),上肢(8%),脊椎(8%)に発症します。骨外性は,傍脊椎,胸部などの軟部組織に発症することが多いです。転移部位は肺,骨,骨髄が多く,リンパ節,肝臓,中枢神経への転移はまれと言われています。
- 転移しやすい部位:肺,骨,骨髄であり,リンパ節転移や中枢神経系(脳や脊髄)の転移はあまりみられません。
- 原因について,現時点では,特定の人に多いといったことはありません。一方で変異した原因遺伝子は見つかってきています。ユーイング肉腫の85%の人は,22番染色体長腕にあるEWS遺伝子と,11番染色体長碗のFLI1遺伝子の転座により,EWS-FLI1キメラ遺伝子が形成されています。これらのキメラ遺伝子は転写因子活性を有しており,腫瘍の発生,浸潤や転移に関与するとされています。
症状
初期症状は,皆違うといっていいほど様々(非特異的)ですが,多い頻度としては病変局所の症状(痛みと腫れ)です。しかしながら痛みはしばしば軽度で,間欠的な痛みや夜間に増強する痛みを生じることがありますが,無痛性の硬い腫瘤のみで発症することもあります。症状が痛みだけの場合,成長痛やスポーツによる外傷と間違えられたり,骨髄炎や腱鞘炎と診断されることもあります。しかし,病状が進行すると発熱,疲労,体重減少などを伴います。骨盤,胸壁,大腿骨などは,腫瘤が触知されにくく診断が遅れることも多いです。脊椎原発の場合は,歩行障害で発症することもあります。
診断
まず,血液検査,尿検査,画像検査,骨髄検査などで全身検索行います。最終判断は生検(腫瘍の一部を切り取ること)を行って診断します。生検した腫瘍細胞から,前述の特異的キメラ遺伝子が検出されれば,診断は確定します。
画像検査
単純レントゲン検査では,病変部位に悪性所見として骨融解像や骨膜変化,弓状の反応性骨形成などが見られます。また,腫瘍の大きさ,広がりなどを確かめるために,CT,MRIなどを使って詳しい検査が行われます。さらに骨シンチグラフィやPET検査などの核医学検査が行われ,病巣部位や転移があるかを確認することができます。これらの画像検査により,病期診断(進行度)を判断します。ユーイング肉腫に関しては,一般的に用いられている病期分類(ステージ)は使われておらず,主に「限局性」と「転移性」に分類されています。
- 限局性:原発部位(原発巣)または所属リンパ節を越えて広がっていない。
- 転移性:遠隔部に転移がある場合。
血液検査
血液検査や尿検査などを行い,腫瘍による臓器への影響を判断しますが,いわゆる腫瘍マーカーがありません。なお,症状が増悪すると(進行すると),血清LDHや赤沈の値が高くなったり,貧血や白血球上昇を認めることがあります。
病理検査(腫瘍生検)
腫瘍の一部(生検)または全部を切除して,その組織を顕微鏡で詳しく調べる検査を「生検」といいます。生検では,悪性腫瘍かどうかを詳しく調べて確定診断をします。また採取された組織について免疫組織学的診断が行われ,MIC2遺伝子からつくられるCD99やEWS-FLI1,EWS-ERGを含むキメラ遺伝子をもとに診断が確定されます。
治療
治療は,全身化学療法,手術療法,放射線治療を含めた集学的治療が行われます。
限局例の治療
化学療法
限局例であっても,全身に微小腫瘍細胞が転移していると考えて,全身化学療法を4-6コース行います。その後,可能であれば原発部位の切除を行い,切除範囲や治療効果の程度により放射線照射を行います。局所療法後は化学療法の追加も行うことがあります。化学療法としてはVDC/IE療法(ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドによるレジメンと,イホスファミド,エトポシドによるレジメンの交替療法)やVIDE療法(ビンクリスチン,イホスファミド,ドキソルビシン,エトポシド)などが行われます。治療反応性が悪い場合には造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行った方が治療成績が良い報告があり,大量化学療法も治療選択の一つになり得えます。
外科療法
四肢を含めて切除が可能な腫瘍に対しては,手術が勧められます。しかし,手術を中心とした治療法を選択した場合でも,手術のみで終わることはほとんどありません。最初に肉腫が発生した原発巣が肋骨などの胸壁の場合,化学療法後に広範切除を行うことが勧められています。しかし,原発巣が脊椎の場合など,切除が難しいこともあり,肉腫が発生した部位により手術を行うか行わないかを含めた手術の方法が異なります。
放射線治療
ユーイング肉腫は放射線感受性が非常に高い(効果が高い)腫瘍であることが知られています。これらにより切断術の回避や患肢温存による機能温存,局所制御が可能になってきています。放射線治療の線量は,50-60Gyが根治量ですが,照射する部位(正常組織への影響),手術での切除の範囲(周りの正常組織も含めて切除する広範切除なのか,限定的な辺縁切除なのか),または,抗がん剤の効き具合によって,照射線量を変更します。
転移例の治療
転移例に対する標準的治療は確立されておらず,限局例と同じVDC/IE療法やVIDE療法などが行われますが,予後の改善には繋がっていないのが現状です。
転移部位の局所制御は,非常に重要です。肺転移例には,12-15Gyの全肺照射が検討されます。また,診断時に多発性転移を認める症例でも,原発部位,転移部位に対して外科治療や放射線治療などの局所治療を行った方が,予後の改善が期待できるとされています。転移例に対する造血幹細胞移植併用大量化学療法は,現在でも有効性に関しては議論のあるところです。
治療期間
限局性・転移性により異なりますが,おおよそ8ヶ月程度とされています。
予後
転移の有無が一番の強力な予後不良因子であり,ほかには腫瘍がリンパ節を越えて広がり転移がある場合や,骨盤や肋骨など発症部位が体幹であること,腫瘍容積が100mL以上,年齢が15歳以上,診断時から2年以内の再発などは,治りにくい因子としてあげられています。
参考文献
- 日本小児血液・がん学会編.小児血液・腫瘍学 第1版.2015, 診断と治療社
- 日本小児血液・がん学会編.小児がん診療ガイドライン2016年版.2016, 金原出版
- JESS 日本ユーイング肉腫研究グループ.