免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病
血液の成分である血小板は主に出血を止める役割を果たしています。血小板は血液中に15-40万/μL程度ありますが,血小板数が5万/μL以下まで減少すると血が止まりにくくなります。免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenic purpura以下, ITP)は免疫の働きに異常が生じて自らの血小板を異物と認識してしまい,血小板に対する抗体が作られて,血小板が壊され減少してしまう疾患です。
特徴
- 小児(15歳)10万人あたり91人/年に発症します。
- 小児の患者さんでは4歳以下の男児に多く,約80%が就学前に発症します。
- ITPの病型は診断後6か月以内に血小板減少が改善する急性型と,診断後6か月以降も血小板減少が続く慢性型に分類されます。小児の患者さんは急性型が多いです。
急性ITP | 慢性ITP | |
好発年齢 | 2-5歳 | 20-40歳, 60-80歳 |
発症様式 | 急性発症,発症時期が明確 | 発症時期が不明確 |
先行事項 | ウイルス感染,予防接種 | なし |
経過 | 診断後6か月以内に改善 | 診断後6か月以降も遷延 |
症状
血小板減少は血小板数が10万/μL以下と定義されておりますが,症状がでてくるのは血小板数が5万/μL以下になった時です。症状としては,90%以上の患者さんで皮下出血(体に大きなあざができる)がみられます。その他に鼻血が止まりにくくなったり,歯を磨くと歯肉から血が出たりします。思春期の女性の患者さんは月経過多(月経の経血量が多くなる)を発症することがあります。重篤な出血として消化管出血や頭蓋内出血がありますが,頻度は消化管出血が4.6%,頭蓋内出血が0.1%と高くはありません。
診断
ITPは血小板減少をきたすその他の疾患を除外することで診断できます。
病歴
既往歴,先行する感染症の有無,ワクチン接種歴,薬剤歴,家族歴を聴取します。小児の患者さんは先行する感染症やワクチン接種など先行事項を伴います。
血液検査
血小板減少(10万/μL未満)のみ認め,貧血(赤血球減少)や白血球減少を伴いません。凝固検査(出血があったときに止血する機能がきちんと働くかどうかを調べる検査)も異常がありません。血小板のサイズは重要であり,ITPでは巨大血小板を呈する場合もあります。
骨髄検査
血液の細胞が作られる骨髄に針を刺して骨髄液を採取する検査です。骨髄の中では形態に異常がない巨核球(血小板を産出する細胞)が増加しております。
その他
血小板減少をきたすその他の疾患
再生不良性貧血・骨髄異形成症候群
血小板減少だけでなく,貧血または白血球減少を伴います。しかし,病初期では血小板減少しか認めない場合があります。
播種性血管内凝固症候群
血小板減少だけでなく,凝固検査に異常を認めます。
血栓性微小血管障害症
溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病が代表的な疾患です。これらの疾患の場合,血小板減少だけでなく,溶血といって赤血球が生理的な寿命を迎える前に病的に破壊される病態も伴います。
全身エリテマトーデスなどの膠原病
血小板減少だけでなく,膠原病に特異的な抗体が検出されます。ITPと同様に血小板に対する自己抗体が産生されることから,これらの疾患に伴う血小板減少は二次的ITPとして分類されます。
遺伝性血小板減少症
血小板減少症の家族歴や血小板のサイズや形態に異常がある場合,ITPの治療に不応な場合に遺伝性血小板減少症を疑います。巨大/大型血小板を認める疾患としてMay-Hegglin異常症やBernard-Soulier症候群,von Willebrand病 type 2bがあり,小型血小板を認める疾患としてWiskott-Aldrich症候群やX連鎖性血小板減少症,正常大血小板を認める疾患として先天性無巨核球性血小板減少症があります。
治療
初期治療
ITPと診断されたらすぐ治療が必要になるわけではなく,血小板減少が自然に回復するのを待つ場合があります。出血症状が中等度で血小板数が2万/μL以下の患者さんが,治療の適応になります。成人のITPではピロリ菌を除去することが初期治療として行われますが,小児の有効性は確立しておりません。小児のITPに対する初期治療は免疫グロブリン療法とステロイドです。免疫グロブリンとはヒトの血液中の成分で,体に入ってきた病原体などから私たちを守る抗体が高純度に含まれている注射剤です。上記の治療により80%の患者さんは診断後6か月以内に血小板減少が改善しますが,残りの20%の患者さんは診断から6か月経過しても血小板減少が続きます。
初期治療が有効でなかった患者さんに対する治療
脾臓は抗体がくっついた血小板を捕食する場所であるため,従来は血小板減少が慢性化した患者さんを対象に,脾臓を摘出する手術をしていました。有効率は80%以上と高いですが,肺炎球菌による重篤な感染症や動静脈の血栓症をきたす副作用があることから,現在は脾臓摘出を避ける傾向にあります。また近年はリツキシマブ(商品名:リツキサン)という一部のリンパ球を抑制する分子標的薬や,エルトロンボパグ(商品名:レボレード)やロミプラスチム(商品名:ロミプレート)といった血小板を増やす作用をもつトロンボポエチン受容体作動薬が成人で使われています。その他にも初期治療に不応な患者さんを対象に,免疫抑制剤のシクロスポリン(商品名:ネオーラル)で治療し,有効であった報告もあります。
予後
重篤な出血である頭蓋内出血のリスクが低いため,すぐに生死に関わる疾患ではありません。血小板数が2~3万/μL程度の減少が続く場合でも,学校生活など日常生活を送ることはできます。しかし,頭を打つ可能性があるスポーツは避けなければいけないなど日常生活を送る上で注意する点がいくつかあり,患者さんの生活の質(私たちが生きる上での満足度をあらわす指標)は下がります。当院では健康なお子さんと同等の日常生活が送れるように,初期治療に不応な患者さんに対して積極的に治療介入しています。
参考文献
- 日本血液学会編. 血液専門医テキスト 第3版. 南江堂. 2017年
- 日本小児血液・がん学会編. 小児血液・腫瘍学.診断と治療社. 2015年
- 笹原洋二. ITPと鑑別が必要な小型・正常大の血小板を有する遺伝性血小板減少症. 日本小児血液・がん学会雑誌 52巻3号 Page311-316. 2015年
- 今泉益栄. 【小児血液疾患-よくわかる最新知見-】出血性疾患 血小板減少症 小児の特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(解説/特集). 小児科 55巻11号 Page1655-1662. 2014年