甲状腺機能亢進症・低下症
甲状腺の病気の原因はヨウ素の不足や過剰,自己免疫,炎症,腫瘍性に大きく分類されます。また甲状腺機能の活動の程度によって亢進症と低下症があります。亢進症は生まれつき(先天性)の場合は稀でバセドウ病(後天性)が有名ですが,低下症は先天性(先天性甲状腺機能低下症)と後天性(橋本病)に分類されます。
1)特徴
先天性甲状腺機能低下症は,出生後まもなく代謝マススクリーニング検査に含まれている病気で頻度は3,000~4,000人に1人といわれています。診断された場合は内服薬により軽快しますが,一過性の場合と生涯続く(永続性)場合があります。甲状腺そのものの形態異常85%(甲状腺がない=欠損,甲状腺が小さい=低形成,甲状腺があるべきところにない=異所性)と,甲状腺ホルモン合成障害15%(遺伝性)に分類されます。
後天性の病気であるバセドウ病,橋本病はともに自己免疫(自分の免疫が自分を攻撃する病気)が関係します。橋本病は別名:慢性甲状腺炎ともいわれ,中年以降の女性に多いですが小児期にも発症し,男女比は1:5位で女児に多く30-40%が家族内発症します。バセドウ病は20歳代の女性に多いですが小児期にも発症し男女比は1:4で女児に多く家族内発症も多いです。
2)症状
先天性甲状腺機能低下症 通常マススクリーニングで出生後早期に診断されるため症状が出る前に治療開始されますが,治療が遅れると黄疸が長引く,便秘,臍ヘルニア(でべそ),体重が増えない,皮膚乾燥,元気がない,舌が大きい,声がかれる,手足が冷たい・むくむ などの症状が出現します。
低下症(橋本病) 疲れやすい,元気がない,寒がり,便秘,食欲低下(代謝が落ちるので体重は増える),背の伸びが一時的に悪くなることがあります。
亢進症(バセドウ病) 多動(落ち着きがない),汗をかきやすい,手のふるえ,動悸,微熱,下痢,食欲亢進(活動が活発になりすぎているので体重は逆に減る)。小児では学校の授業中に落ち着きがなくなった,成績が落ちた,精神症状と間違われる場合もあります。背が急にのびる,月経不順になることもあります。
3)診断
先天性甲状腺機能低下症
- 甲状腺ホルモン(FT3↓,FT4↓,TSH↑)
- 甲状腺超音波:甲状腺の大きさの確認(形態異常が原因の場合は,萎縮や異所性の可能性もある)
- 膝の骨(膝蓋骨)のレントゲン:大腿骨遠位骨端核の成熟度は,胎児期の甲状腺機能の指標となります。先天性甲状腺機能低下症で重症の場合は骨端核を認めないことがあります。
橋本病,バセドウ病
- 2)の症状+甲状腺腫大
- 甲状腺ホルモン(FT3,FT4,TSH)
甲状腺機能低下症ではFT3↓FT4↓,TSH↑
(橋本病では,甲状腺ホルモンが正常なこともあります)
甲状腺機能亢進症ではFT3↑FT4↑,TSH↓
- 自己抗体:
橋本病(サイログロブリン抗体またはTPO抗体が陽性)
バセドウ病(TRAbまたはTSAbが陽性)
- 甲状腺超音波
低下症では甲状腺腫大,甲状腺内部エコーの低下,不均一
亢進症では甲状腺腫大,血流亢進
(補足)成長段階にある小児では甲状腺ホルモンは成長にも関係するので,成長曲線の作成や骨年齢を評価(左手の写真)することで発症時期を推定することができます。先天性甲状腺機能低下症では膝蓋骨のレントゲンを撮ることで胎児期の甲状腺機能を評価することができます。
4)治療
先天性甲状腺機能低下症,橋本病
甲状腺ホルモンが低いためレボチロキシンナトリウム(チラーヂンSR)という飲み薬が必要です。
バセドウ病
甲状腺ホルモンの過剰を抑えるためチアマゾール(メルカゾールR)という飲み薬を使います。発症時に動悸が強い場合は,一時的に動悸を抑える薬を使うこともあります。小児期は成人にくらべて発症も少ないですが,発症すると治療が効きにくい(内服が不要になるのは30%)といわれており,数年~10年以上の内服が必要になることが多いです。チアマゾールでも抑制できない場合は手術することもあります。
手術
バセドウ病において,内服薬で改善しない,副作用で内服治療ができない,長期間内服してもよくならない場合は手術の適応になりますが,小児期は内服治療で経過をみることがほとんどです。