思春期早発症
病態と定義
思春期の発来の仕組み
思春期になると視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が,分泌されるようになり,その結果下垂体からゴナドトロピン(黄体形成ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH))が分泌される。その結果,性腺(男児の場合精巣 女児の場合卵巣)がゴナドトロピンに刺激され,性ホルモン(男性ホルモンや女性ホルモン)が分泌される。
思春期の発来年齢
思春期は以下の年齢で通常は発来・進行する。
男児の場合
- 睾丸の発達(3-4ml以上):通常10歳後半から11歳
- 陰毛・腋毛の発達:通常12歳半から13歳
- 声変わり・髭:通常13歳から14歳
女児の場合
- 乳房の発達:通常9歳半
- 陰毛・腋毛の発達:通常11歳半
- 初経:通常12歳半
思春期早発症
思春期早発症は暦年齢に比較し二次性徴が2.5~3.0SD程度早期に出現した状態を指す。つまり,思春期が通常と比較し2-3年ほど早い状態を指す。
以下が思春期早発症の診断基準である。
男児の場合
- 9歳未満の精巣,陰茎,陰嚢の明らかな発育
- 10歳未満の陰毛発生
- 11歳未満の腋毛,ひげの発生
女児の場合
- 7歳半未満の乳房発育
- 8歳未満の陰毛または外陰部早熟
- 10歳半未満の初経
思春期早発症による問題点
心理的な問題
周囲と比較し精神年齢が高くなるため戸惑いを生じ,鬱となることもある。
将来的な低身長
思春期で伸びる身長とは男子で平均30cm 女児で平均25cmと言われており,思春期が早く来ると一時的には身長が伸びるものの,その後早期に背の伸びが止まり最終的に低身長となる。
原因
下垂体からのゴナドトロピン分泌増加によるGnRH依存性
- 特発性(器質的原因のないもの)
- 頭蓋内腫瘍(視床下部過誤腫,神経膠腫,視床下部星細胞腫,神経線維腫症)
- 中枢性神経系障害:奇形,くも膜嚢腫,水頭症,髄膜炎,血管障害,外傷,放射線照射,脳性麻痺など
- 遺伝子異常:KISS1,KISS1R,MKRN3
ゴナドトロピンの分泌増加を伴うことなく性ホルモンが増加するGnRH非依存性
男子の場合
hCG産生腫瘍
中枢性神経系(絨毛上皮腫,胚細胞腫,奇形腫),肝臓がん,肝芽腫,奇形腫,絨毛がんなど
アンドロゲン過剰
先天性副腎過形成(21-水酸化酸素欠損症,11β-水酸化酵素欠損症),男性化副腎腫瘍,ライディッヒ細胞腫,McCune-Albright 症候群,アンドロゲン製剤投与
女子の場合
エストロゲン過剰
エストロゲン産生腫瘍(副腎,卵巣),機能性卵巣嚢胞,エストロゲン製剤投与, McCune-Albright 症候群
正常型バリアントを含む部分型思春期早発症(早発乳房など)
原因は分かっていないことが多い。
この中で最も多いのが特発性思春期早発症であり女児の70%(6歳以上では90%) 男児の40%を占める。また特発性思春期早発症には両親の思春期発来が早いなどの家族歴を伴うことが多い。また男児の思春期早発症は脳腫瘍などが原因となる場合があり,中枢性思春期早発症と診断された際は脳腫瘍などの器質的疾患を除外する必要がある。
治療
特発性思春期早発症
GnRHアゴニストの皮下注射を1か月(4週間)おきに行う。
GnRHアゴニストとは?
下垂体を持続的に刺激し,結果的に下垂体の反応性を低下させ,精巣・卵巣への刺激を抑制し,性ホルモンの分泌を抑制する。
特発性思春期早発症以外の思春期早発症
原因疾患に準ずる。