全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は抗DNA抗体などの自己抗体が産生され,様々な臓器に病変を起こす自己免疫疾患のひとつです。
「全身性」とは体の様々な臓器に病変を起こすことを示します。「lupus」はラテン語のオオカミを,「エリテマトーデス」はギリシャ語の赤色を意味しています。SLEに特徴的な顔の蝶形紅斑(赤い皮疹)が,まるでオオカミが噛んだあとに似ていることから lupus erythematosusと名付けられました。
特徴
小児SLEは成人SLEと比べて,症状の進行が速く症状が重いことが多いですが,治療にもよく反応することが特徴です。
原因
遺伝的要因(生まれつきの体質)を背景に環境要因(感染症,紫外線,薬剤など)が関与するといわれています。
私たちの免疫システムでは,細菌やウイルスなど自己ではない異物(抗原)が体内に侵入すると,それを排除するために結合する抗体を産生します。また,補体系と呼ばれる異物を排除するための免疫システムを持ち合わせています。
SLEでは何らかのきっかけにより,抗DNA抗体などの自己抗体(自分の身体に対する抗体)が産生されます。この自己抗体は,自己抗原(自身の身体の成分)と結合し免疫複合体を形成します。免疫複合体が補体系を活性化し,皮膚,腎臓,神経,眼,腸,膀胱など様々な臓器に炎症を起こします
疫学
日本での小児SLEは人口10万人あたり4人程度とされています。
症状
SLEは全身の様々な臓器に病変を起こすため,その症状は多岐に渡ります。
全身症状
発熱(微熱から40℃台まで),倦怠感,リンパ節腫脹を認めます。
皮膚・粘膜症状
蝶形紅斑:初期は両頬の紅斑(赤い皮疹)が生じ,鼻根部(鼻すじ)を超えてつながると蝶形紅斑となります。蝶形紅斑はSLEに特徴的な皮疹で,蝶が羽を広げた様子に似ていることからこのように呼ばれています。
円板状紅斑
円形のレコードに似た皮疹が生じることがあります。
光線過敏
日光に当たると,皮膚が過剰に赤くなります。
口内炎
主に上あごに口内炎がみられることがあります。一般的な口内炎は色が白く痛みを伴いますが,SLEに伴う口内炎は痛みを伴わず単に穴が開いたように見えることが特徴です。
腎炎
ループス腎炎と呼ばれる腎臓の炎症が起こります。小児SLEでは頻度が高い臓器病変です。ループス腎炎では,蛋白尿(尿に蛋白が漏れ出ること)により血管内の蛋白,特にアルブミンが減少し浮腫や乏尿(尿が少ない)を起こすことがあります。自分で気付く症状がなく,学校検尿で蛋白尿に気づかれたことがきっかけでSLEの診断に至る場合もあります。ループス腎炎の診断,管理はSLEの管理の中でも重要です。
関節症状
朝のこわばりを伴う左右対称性の関節炎が手の指などの小関節や,膝,手首の関節などの大関節でみられますが,その頻度は成人SLEほど高くはありません。通常,関節炎は一過性(長くは続かない)か移動性(関節が変わる)です。SLEの関節炎ではX線検査で骨が破壊されている所見がみられないことが特徴です。
神経/精神症状
けいれんや意識障害などの神経症状や,精神症状がみられることがあります。頭痛も認めます。
その他
心臓の病変の多くは心外膜炎(心臓の外側を覆う膜の炎症)で,心嚢液貯留(心外膜と心臓との間に水がたまる)がみられます。その他,目では網膜炎,腸ではループス腸炎,膀胱ではループス膀胱炎など,様々な臓器の病変がみられます。
抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなど)とよばれる自己抗体が産生されると,動脈,静脈で血栓(血液のかたまり)ができます。その結果,脳梗塞や流産を起こすことがあり,これを抗リン脂質抗体症候群といいます。
検査
血液検査
白血球減少,貧血,血小板減少,低補体血症,抗核抗体(自己抗体)陽性など様々な所見を認めます。自己抗体の中でも抗ds-DNA抗体,抗Sm抗体はSLEに特徴的な抗体です。その他にも抗SS-A抗体,抗RNP抗体など様々な自己抗体が陽性になることがります。抗リン脂質抗体症候群を合併すると抗カルジオリピン抗体やループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体が陽性になります。
尿検査
ループス腎炎があると蛋白尿を認めます。
腎生検
腎臓の組織を調べる検査です。この検査でループス腎炎の型がわかります。
その他
心電図,X線検査,超音波検査など,様々な臓器の合併症がないか検査をします。
診断
SLEの診断は症状と検査結果をもとに総合的に行われます。一般的には米国リウマチ学会が提唱した改訂ACR分類基準(1997年版)をもとに診断されます。小児SLEでは,この改訂ACR分類基準に「低補体血症」を加えた「小児SLE診療の手引き」の基準も用いられます。いずれも機械的に項目をあてはめて診断するのではなく,症状,検査結果を踏まえて総合的に診断します。
治療
検査結果,症状をもとに臓器障害や進行リスクに応じて治療を行います。寛解導入療法では急性期の炎症を抑えること,寛解維持療法では抑えた炎症を再燃させないことを目標にします。ステロイドや免疫抑制剤(シクロスポリン,タクロリムス,ミコフェノール酸モフェチルなど)が使用されます。
ステロイドを長期に多く使用すると,骨密度が低下し成長障害(身長が伸びにくくなる)が起きることがあります。成長過程にある小児では,急性期の炎症を抑えた後はできるかぎりステロイドを減量するために免疫抑制剤を併用するなど工夫がされます。