起立性調節障害(小児科新生児科) きりつせいちょうせつしょうがい(しょうにかしんせいじか)

起立性調節障害(Orthostatic dysregulation: OD)は、自律神経機能不全のため、体位変動を代償する調節機構が破綻する病気です。二次性徴がはじまる思春期に好発する自律神経機能不全の一つで、たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などのさまざまな症状を伴います。思春期の一時的な生理的変化であり予後良好とされていましたが、重症では日常生活への支障が著しく、不登校やひきこもりをひき起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな影響を与えることがあります。発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが大切です。
当院では中学生までの患者様への診断・治療に小児科新生児科で下記対応を行っています。

特徴

有病率

軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%に自覚症状が存在するといわれています。重症は約1%程度で、不登校の約3-4割に併存するといわれています。

男女比

男:女 = 1:1.5~2

好発年齢

10~15歳

遺伝・家族性

約半数に遺伝傾向を認める

環境

日内変動(体調は午前中に悪く、午後になるにつれて警戒する)や季節性変動(春や秋に悪化しやすい)があります。

併存疾患

睡眠障害、過敏性腸症候群の併存が多くみられます。

病因

背景には、遺伝的な要因のほかに、水分摂取不足、心理社会的ストレス、日常の活動量低下によるdeconditioningの存在などが考えられています。

症状

  • 立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛などが主な症状です。
  • 症状は午前中に強く午後には軽減し、夜になると元気になる傾向があります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。
  • 夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。

診断

  • ODの診断アルゴリズムを下に示します。11の症状のうち3つ以上当てはまるか、2つであって強く疑われる場合にはアルゴリズムに沿って診断します。
  • 鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかん、内分泌疾患など、基礎疾患を除外します。新起立試験を実施し、以下のサブタイプを判定します。
  • 新起立試験もしくは非観血的連続血圧測定装を用いた起立試験(当施設では後者)にて、以下のサブタイプを判定します。検査は、10分間安静臥位ののちに10分間起立し、その間脈拍や血圧を測定します。当施設では同時に近赤外分光法により脳血流を測定しています。検査の様子を下に示します。

近赤外分光法によって脳血流を測定している様子

 

サブタイプ分類

  • 起立直後性低血圧:起立直後の血圧回復時間≧25秒もしくは≧20秒かつ≧60%の平均血圧低下
  • 体位性頻脈症候群:起立3分後心拍数≧115/分もしくは心拍数増加≧35/分
  • 遷延性起立性低血圧:起立直後の血圧は正常、起立3-10分経過して血圧低下
  • 血管迷走神経性失神:起立中に突然血圧低下
  • 近年、脳血流低下型、高反応型など新しいサブタイプが報告されています。

治療

疾病教育

症状は特に朝に強く、起床困難で遅刻や欠席をくり返すため、周囲から、「怠け癖」だと思われているケースが多くみられます。患者さん本人、ご家族、学校などに、「ODは身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解していただくことが重要です。

非薬物療法

坐位や臥位から起立するときには、頭位を下げてゆっくり起立する。静止状態の起立保持を避け、短時間での起立でも足をクロスする。水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分を多めにとる。毎日30分程度の歩行を行い、下半身の筋力低下を防ぐ。眠くなくても就床が遅くならないように就寝前のスマホやタブレットなどを制限する。

学校との連携、環境調整

学校関係者にODの理解を深めてもらい、OD児の受け入れ態勢を整えて、子どもの心理的ストレスを軽減することが最も重要です。ご家族の方や学校関係者がODの発症機序を十分に理解し、医療機関―学校との連携を深めて体制を整えることが大切です。

薬物療法

非薬物療法を行ったうえで、薬物療法(塩酸ミドドリン、プロプラノロールなど)を行いますが、これだけでは即効性はありません。

心理療法

ODの病態生理は自律神経の機能不全ですが、自律神経機能に心理社会的ストレスが影響を与え、症状を悪化させることがあります。心理的社会的ストレスが大きい患者さんに対しては心理療法の併用をお勧めしています。

予後

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席するような重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します。

おわりに

ODの症状は不定愁訴が主体であり、「気持ちの問題」「怠けもの」「根性で治せる」という誤解や周囲の誤った対応が心理的社会的ストレスとなり、引きこもりの原因になることがあります。また引きこもりになると、日中も横になって生活することが増え、重力に逆らう姿勢をとらなくなることでdeconditioningが悪化し悪循環となります。発症の早期から重症度に応じた対応や治療、ご家庭や学校での疾病理解が必須となります。ODは成長とともに改善していくことが多いですが、薬物療法は即効性がなく、適切な加療を行っても改善には数年を要します。周囲も焦らず長い目で見守ることが大切です。

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