神経発達症
神経発達症とは、言葉を話す、話された言葉の意味を理解する、物事を考えるなどの複雑な脳の働きに問題があるために生活に支障が生じる状況が18歳までに現れるものをいいます。多くは就学前に明らかになります。育て方に問題があると誤解されることもありますが、現在その考え方は否定されています。患者さんやご家族、先生などがどの程度お困りかを専門家が判断し、最適な形で治療や介入をするために診断を行っています。ここでは、代表的な自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症、限局性学習症について紹介します。
自閉スペクトラム症
特徴
広汎性発達障害や自閉症、アスペルガー症候群とされていた疾患が、2013年に、自閉スペクトラム症とまとめられました。人とのコミュニケーションが苦手でこだわりがあることが特徴です。
症状
強いこだわり、思い通りにいかないとかんしゃくがある、切り替えが苦手、場の空気が読めない言動や行動、友達を作るのが苦手、新しい環境や予期せぬ事態に上手く対応できないなどの症状があります。これらが原因で誤解されたり、いじめの対象になったりすることもあり、登校困難となるケースもしばしばあります。
診断
診断は国際的に認められた診断基準によって行われます。
対応と治療
ご家族や学校の先生の接し方
- 生活環境を調整したり、行動パターンを徐々に修正したりといったことが治療の中心となります。先の見通しをたててあげると安定した生活が送りやすくなります。
- 多くの患者さんは耳からの情報より目から入った情報を処理しやすいため、してほしいこと、ルール、スケジュールなどはなるべく視覚に訴えるように文字や写真やイラストなどでわかりやすく指示を出してあげるとよいでしょう。口頭指示は、できるだけ簡潔にし、一度に与える情報量を少なくしてあげるとよいでしょう。
- ソーシャルスキルトレーニングやペアレント・トレーニングも有効です。心のケアのために心理カウンセリングも併用することもあります。
薬物療法
18歳未満の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対してリスペリドン(商品名:リスパダール)とアリピプラゾール(商品名:エビリファイ)の使用が承認されています。
注意欠如・多動症
特徴
年齢や発達に不釣り合いな不注意さや多動性、衝動性が特徴です。生まれつきの特性で12歳までには症状出現し、日常生活や学習に支障をきたします。有病率は学齢期で3~9%とされています。
症状
ぼーっとして先生の話を聞いていない、気が散りやすい、理解はしていてもケアレスミスが多くテストの点数が悪い、忘れ物が多い、整理整頓が苦手などの不注意・集中力のなさからくる症状や、授業中立ち歩く、車道に飛び出す、すぐに喧嘩する、などの衝動性・多動性からくる症状があります。
診断
国際的に認められる診断基準によって行われます。
対応と治療
ご家族や学校の先生の接し方
まず周囲の環境を気が散らないように整えることが重要です。例えば学校では、教室の座席は一番前にする、視界にはいるところに余計な装飾品を置かないなどです。また、指示は分かりやすくし、それを達成できたら十分に褒めましょう。特性を理解せずにただ厳しく叱っても症状は改善せず、自己肯定感が下がる原因にもなります。ソーシャルスキルトレーニングやペアレント・トレーニングも有効です。
薬物療法
現在日本で使用可能な薬剤は、塩酸メチルフェニデート(商品名:コンサータ)とアトモキセチン塩酸塩(商品名:ストラテラ)、グアンファシン塩酸塩(商品名:インチュニブ)、リスデキサンフェタミンメシル酸塩(商品名:ビバンセ)の4つで、前者3種は現在当院で処方可能です。副作用は薬剤によりますが、食欲不振、体重減少、不眠、眠気、立ちくらみなどがあります。副作用の程度をみながら最適な用量まで増量し継続します。
限局性学習症
特徴
知能に問題がないのに、読む、書く、計算するといった学習技能のうちいずれか1つ以上がうまくできない状態をいいます。
症状
読字障害
誤った発音をする、文章の文字や単語を抜かして読む、読んでいるものの意味を理解することが難しい。
書字障害
誤った文字を書く、句読点を間違える、単語の中に誤った文字が混ざる、文法の誤りが多い文章を書く。
算数障害
数の感覚、計算の正確さに困難がある、数学的推理の正確さに困難がある。
対応
- 学習法を時にはタブレットや計算機を取り入れて工夫する。
- 学校の先生にも協力を依頼し、授業の教材や方法、接し方の工夫をしてもらう。
- 有効な薬物療法はありません。