てんかん
てんかんとは、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、けいれん、意識の消失、感覚異常、自律神経症状などの発作が突然に起こるものです。脳の神経には興奮系と抑制系がありこれらがバランスよく働いていますが、興奮系の神経が強く働くもしくは抑制系の神経の力が弱まると、脳の電気的な活動の一時的な乱れがおきることで発作が生じます。
特徴
分類
発作型により以下のいずれかに分類されます。
焦点起始発作
左右どちらかの大脳半球のネットワーク内に発作の焦点が限局するもの
全般起始発作
発作が両側大脳半球のネットワーク内に起こり、このネットワークが急速に発作に巻き込まれるもの
起始不明発作
発作の起始が不明なもの
病因の分類
構造的
画像検査で異常所見があるもの(脳の奇形、外傷など)
素因性
遺伝子異常が直接の原因となるもの (Dravet症候群など)
感染性
感染症が直接の原因となるもの(先天性サイトメガロウイルス感染症、亜急性硬化性全脳炎など)
代謝性
代謝異常が直接の原因(アミノ酸代謝異常など)
免疫性
免疫性疾患が直接の原因(自己免疫性脳炎など)
病因不明
原因が明らかになっていないもの
疫学
- てんかんの有病率は一般人口100~300人当たり1人程度です。
- 焦点性が60-70%、全般性が20-30%
症状
てんかん発作は、本人の意思とは無関係に突然起こり、通常は数十秒から数分以内に消失します。また、同様の発作症状を繰り返すことが特徴です。
焦点起始発作では、体の一部例えば右上肢にけいれんや感覚異常が出現したり情動の変化や自律神経症状などが生じ、それに対応し、脳波では一部の大脳領域に異常波が認められます。全般起始発作は、通常、意識障害を伴い、全身性にほぼ対称性にけいれんが出現し、脳波でも大脳の全体にほぼ同時にてんかん性の異常波が見られます。
診断
発作症状と脳波所見で診断します。てんかんの原因となる脳の器質的な異常がないか頭部MRIなどの頭部画像検査や血液・尿検査等を行ないます。
治療
てんかん治療の目標は、発作を抑制すること、薬物の副作用を最低限にすること、普通の生活をつづけられるようにすることです。薬物療法、ケトン食療法、迷走神経刺激法、脳外科手術などがあります。
薬物療法(抗てんかん薬内服)
てんかん発作を複数回繰り返した場合には、発作の原因となる脳の神経細胞の過剰な興奮を抑える抗てんかん薬の内服の開始を検討します。内服治療は開始後数年続けることになります。通常、初回発作の場合は抗てんかん薬を開始せずに、脳波検査を繰り返し経過観察しますが、発作が1回でも、脳波異常が重度で発作を繰り返すリスクが高いと判断した場合には、治療の開始をお勧めすることもあります。てんかん発作のタイプ、年齢、副作用などを考慮した上で、患者さんにあった抗てんかん薬を選択します。その後、発作頻度、副作用の有無、脳波所見、抗てんかん薬の血中濃度などを見ながら、投与量を調整していきます。抗てんかん薬の副作用は薬剤により様々ですが、どんな薬剤でもみられる副作用に眠気やふらつき、集中力の低下があります。初期に出現する副作用として全身性の薬疹が出現することが稀にあり、その場合はすぐにその治療を中止する必要があります。また薬により長期間服用すると、体重変化、肝機能障害、白血球減少、抜け毛や多毛、骨密度低下、歯肉腫脹などが見られることがあります。血液検査をしないとわからない副作用もあるため、年に1, 2回程度は血液・尿検査を施行し副作用のチェックをすることが望ましいです。
- てんかん発作のリスク因子としては、発熱、睡眠不足や過労、心理的ストレス、薬の飲み忘れなどがあり、女性の場合月経前後にも増加します。ライフイベント(妊娠や仕事)に合わせて薬を変更することもあります。
- 原則として3年発作がなく、脳波検査で発作性の異常が2年以上みられない場合は薬の減量、中止を検討します。
ケトン食療法
高脂肪、低タンパク質、低炭水化物の食事療法
迷走神経刺激法
皮下に装置を埋め込み、迷走神経を刺激し、発作を減らす治療法
外科的治療
発作を引き起こす脳の部位や経路を切除する方法です。てんかん治療の基本は抗てんかん薬の内服ですが、内服治療に抵抗性のコントロール不良のてんかんでは、認知的・行動的発達に悪影響を及ぼす可能性があるため、外科的治療の適応も考慮して、てんかん専門施設へご紹介させていただく場合がございます。
予後
小児期に発症したてんかんのほうが成人になってから発症するてんかんよりも再発率は低いといわれていますが、原因により様々です。てんかん性脳症では発作予後は不良です。