膵臓がん
膵臓がんは見つけ難く、手術も難しく、再発が多い最悪の癌と考えられ5年相対生存率(膵がんと診断された人が日本人全体の5年後に生存している人に足して生存している割合)は8.9%と腹部臓器では最悪の癌です。
図1 がんの5年相対生存率 (国立がんセンターがん登録・統計より)
一方、膵臓の腫瘍は画像診断の発達で良性から悪性まで広く発見されるようになりました。よって、根治できる早期の膵癌を見つけるためには、専門の検査が必要です。早期がんを治療し5年無再発で経過した時点のその後の再発率(5年サバイバー・生存率)は他の腹部臓器癌に劣らず良好です。(図2)
図2 膵がん(男性)サバイバー生存率 (国立がんセンターがん登録・統計より算出)
初期には症状が出現せず、進行した状態にならないと、症状や血液検査の異常は出てこないのが通常なので、いかに初期の兆候を見逃さず適格な画像診断をおこなうことが大切です。
特徴
- 膵がんは増加傾向にあり、日本人のがん死亡原因の4位です。
- 遺伝性の膵がんもありますが、もっとも注意が必要なのは、糖尿病・肥満・慢性膵炎と診断されている人でコントロールが急に悪くなったと言われた人などです。
- お酒、タバコを好む人、金属加工剤(塩素化炭化水素)をあつかう職業の方は注意が必要です。
- 偶然発見された膵管内乳頭粘液性腫瘍(膵臓にみずたまりの袋があるなどと言われます)を持つ方。
これらのリスクがある人は定期的に膵がんに対するスクリーニングが大切です。
症状
図3 膵臓の場所と名前
膵臓は体の一番うしろの後腹膜という部分にあり、太い血管や腹部神経がすぐ近くを通っています。症状が出る人は、膵臓癌の出来た場所と大きさによって症状が異なります。膵臓は頭部・体部・尾部の3つに分けて表します。
頭部
膵臓の中を胆管が貫き十二指腸につながります。がんで胆汁の流れが滞ると黄疸が出現します。自身では、紅茶みたいな色の尿が出た、便の色が灰色になったと感じる人がいます。
体部
胃のちょうど裏側に存在します。背中や腰の痛み、体重減少、みぞおちや胃の不快感で受診をします。
尾部
症状が最も出にくく、体重減少のほか、左横腹や腰痛、おなかに水が貯まり、膨満感で来院する方もいます。
診断
CT/MRI検査
体を薄く輪切りにした像を用いて、腫瘍を探すもっとも客観的な検査法です。CT(放射線)、MRI(磁力)を使って腫瘍の存在のほか、部位・進展・転移を診断することで、治療方針の概要が決定されます。MRIは造影剤アレルギー(ヨウ素アレルギー)のある患者さんにも安全に行える検査です。
内視鏡検査
超音波内視鏡検査
電子ファイバ-スコ-プ(胃カメラ)の先端に超音波装置が付いています。膵臓のまわりには胃や十二指腸が存在するために、より近くから、観察が可能です特に、CTやMRIでは確認が困難な小さながんの発見と、がんと疑われる臓器から直接組織を採取します。
内視鏡的逆行性ドレナージ
黄疸がある患者さんには内視鏡を使って胆汁の通り道を確保(ドレナージ)したり膵液を採取してがんの診断をおこなったりします。
PET-CT検査
がん組織は正常細胞に比べてブドウ糖をたくさん取り込む性質を利用して、ブドウ糖に微量の放射線放出物質をつけた薬剤を体内に注射して検査をします。他の臓器やリンパ節転移の有無を見つけます。糖尿病の人への検査は不正確となる場合があります。
審査腹腔鏡検査
当科では切除可能膵癌および切除可能境界膵癌中の術後早期再発例には術前に腹腔内(お腹の中のスペース)に微小転移があるかもしれないという仮説に着目しています。微小転移は術前画像では捉えられないため、腹腔内を直接カメラで観察し同時に腹腔内に散らばっている癌細胞の検出を目的に審査腹腔鏡を行っています。これにより診断精度が上昇しより正確な治療方針を患者さんへ提示できることを期待しています。
膵癌の切除可能分類
膵癌の切除可能分類には①切除可能②切除可能境界と③切除不能の3つに大きく分けられますが、切除不能は、がんがある場所で腫瘍が主に重要な脈管に浸潤する(局所進行)もの、離れた臓器に転移をする(遠隔転移)ものに分けられます。
病期分類・ステージ
ほとんどのがんには病期が存在し、T:深達度因子(癌浸潤の深さ)・N:リンパ節因子(リンパ節転移)・M:転移因子(他臓器転移)の3つの因子で決定され最初の治療方針を計画します。膵臓癌は、がんの大きさが2cm、近くを通る主動脈へのがんの浸潤(がんが組織を包み込むように大きくなり切除が困難であることの)、そして他臓器などへの転移の有無で病期が決定されます。(図4)それぞれの病期に応じて、手術・化学療法(抗癌剤)・化学(放射線)療法・支持緩和療法が選択されます。
図4 膵臓がんの病期(日本膵臓学会)
治療
ステージが決定すると、各ステージごとに治療が選択されます。検査終了後のステージはあくまでも、仮の決定(クリニカルステージ)であり、外科治療を受けた場合は、組織検査後のステージが最終ステージとなります。
図5 ステージごとの膵がん治療方針 膵がん診療ガイドライン2019(一部改変)
外科療法(手術)
ステージが0からIIIまでのがんは手術ができる条件であれば手術が原則になります。近年術前後に抗癌剤を加えることで、術後再発や生存日数の改善が報告されています。また、主動脈近くまで腫瘍が浸潤しているため切除が困難と診断された人にも、抗癌剤を投与することで、がんが縮小し手術ができる患者さんも増えてきました。(コンバージョン手術といいます。)
一般的な手術は腫瘍の場所で規定され頭部では膵頭十二指腸切除術、体尾部では膵体尾部切除術が選択されます。
化学療法
ステージがIIIの一部とIVの患者さんでは、手術が生存に寄与せず、かえって体力をうばわれてしまうため、化学療法(抗癌剤)が選択されます。抗癌剤治療は多剤併用療法(複数の抗癌剤の組み合わせ治療)が一般的になっています。
放射線療法
膵臓癌に対する放射線単独治療は成績が他治療と比較して劣るため一般的ではありません。痛みの治療を目的もしくは、術前抗癌剤治療との組み合わせで行われます。