顔面外傷・顔面骨骨折
顔面は、交通事故、転倒、スポーツ、暴力などの様々な原因により若年者から高齢者まで幅広い年齢層でケガをすることの多い部位です。顔面のケガによるキズアトや変形は、見た目の問題にとどまらず心理的にも大きな苦痛となります。さらに、顔面の骨折を伴う場合は、変形に加えて、顔面のしびれや開口障害(口が開きにくい)、咬合不全(かみ合わせが悪い)、複視(ものが二重に見える)などの後遺症をもたらすことがあります。
顔面皮膚軟部組織損傷(顔のケガ)
顔のケガの場合は表面のキズアトをいかに目立たなくさせるかということが重要です。さらに、顔面神経や涙・唾液の通り道などの深い部分の損傷に対しては、初めから適切な処置が施されなければ思わぬ後遺症を残すことになるので注意が必要です。当科ではどのような損傷に対しても適切に対応を行い、また術後のアフターケアも万全に行う体制をとっています。
顔面骨骨折 (顔の骨折)
当科では、顔面骨骨折の治療について独自の新しい手術方法や技術を開発し、良好な治療成績が得られることを学会や学術誌に報告してきました。これらの新しい方法は、学会で定める診療の指針となるガイドラインでも有効性が認められるに至っています。
鼻骨骨折 (はなの骨折)
鼻骨の骨折は顔面骨の骨折の中で最も多い骨折です。受傷してから2~3週間以内であれば皮膚に傷をつけずに治療することが可能です。原則的には、入院して全身麻酔による治療を行います。当科では、骨折の整復の状況(治り具合)を手術中に超音波診断装置を用いて評価することで、正確な整復を行っています。整復後は、鼻腔内にガーゼを詰めて、外側はプラスチック樹脂製のガードで固定を行います。受傷から1ヶ月以上経過した陳旧例では骨を切って整復する必要があります。その場合も鼻腔内の切開から行い表面には傷をつけずに行いますが、骨移植などを要することもあります。
眼窩骨骨折(眼の周りの骨折)
眼球は、薄い眼窩骨により周囲の副鼻腔と隔てられています。眼窩に急激な衝撃が加わった場合に周囲の副鼻腔に吹き抜けるように骨折を起こすことがあり、「眼窩吹き抜け骨折、ブローアウト骨折」といわれています。眼窩吹き抜け骨折の症状としては眼球運動障害による複視(物が二重に見える)、眼球陥凹(眼がへこむ)、頬部の知覚障害(しびれ)などが挙げられます。治療は、まぶたの縁を切開して骨折部を露出して整復します。一般的には、骨折の整復後に肋軟骨、腸骨(腰の骨)や吸収性プレートで骨の失われた部分を補填する方法が広く行われています。当科では、3D実体モデルを用いたシミュレーションサージャリーを実践し、骨折部に対する吸収性プレートによる補填を、正確に・短時間で・低侵襲に行い、良好な結果を得ています。
頬骨骨折 (ほおの骨折)
頬骨は頬(ほお)部に突出した骨で、頬に加わった力により骨折を来します。症状としては頬部の平坦化、眼球運動障害による複視(物が二重に見える)、頬部の知覚障害(ほおやくちびるのしびれ)、開口障害(口が開きにくい)などがみられます。治療は偏位した頬骨の整復と固定が原則で、眉毛外側、下眼瞼縁および必要に応じて口腔内に皮膚切開を加えて骨折部を露出し、直視下に整復してプレートで固定するのが一般的です。当科では、骨折の状態や症状によって、手術中に超音波診断装置を用いて整復の状況(治り具合)を評価して固定する手術方法を行っています。この方法では、皮膚の切開を眉毛外側の小さな切開のみに限定することができます。固定は、眉毛部の1箇所のプレート固定とワイヤーによる固定を行います。ワイヤーは、術後6週間程度で外来にて5分程度で抜去します。顔面のキズと骨の周囲の剥離(手術の操作)を最小限にするため低侵襲(体に負担の少ない)であり、術後の腫れが少なく、入院期間も短縮できる手術方法です。
頬骨骨折3次元CT像
多発顔面骨骨折 (顔の複雑骨折)
顔貌の正確な復元はもちろん、咬合(かみ合わせ)の復元も大切です。また、術後の呼吸管理など集中治療が必要となる場合もあります。当科では術前に3次元CT検査による画像シミュレーションなどで検討を行った上で手術を行っています。また、咬合調整、歯科矯正などが必要となる場合は、歯科口腔外科と共同で治療に臨みます。また、頭蓋骨に及ぶ骨折がある場合には、脳神経外科とも協力して治療を行います。