本院の取り組みについて下記のとおり，説明させていただきます。

【胃がん生存率】

がんの生存率の算出方法としては，今回の記事で用いられた治療を行ったがん以外の死亡を含んだ生存率（全生存率）と，治療を行ったがんによる死亡のみを考慮した生存率（疾患特異的生存率），治療を行ったがんの再発率（無再発生存率）など，様々な方法で算出されます。これらの算出方法のうち，疾患特異的生存率，無再発生存率が，各病院のがん治療の水準を示すものであり，がん診療以外の疾患に対しても積極的に日常診療を行っている医療機関においては，がん患者さんが，がん以外の疾患で亡くなることも多いため，全生存率は低く算出される傾向にあります。 事実、データの公表先であるがん情報サービスのホームページには，公開された「生存率」の取り扱いについては，「特に施設間では高齢者の多い施設，少ない施設，他の病気をもつ患者の多い施設， 少ない施設があるため，単純に生存率を比較して，その施設の治療の善し悪しを論ずることはできませんので，ご注意いただきつつ，数字を見ていただくようお願いします。」と注意喚起がなされて おります。このような比較評価を避けるために，都内のいくつかの大学病院やがん診療病院は診療データを公表していません。

当院は，大学病院として高度な医療を提供する一方で，地域の基幹病院的役割も担い，救急患者も多く診察しています。その中で，がん治療歴のある患者さん，とくに胃がんstage Iの患者さんは根治が得られることが多いため，その後，他疾患で亡くなられる方の割合も多くなります。一方，がん専門病院では，がんの治療に特化しており，重篤な循環器疾患などが併存するがん患者さんは，循環器内科をはじめとする各種診療科を有する大学病院などの総合病院に紹介されるケースが少なくありません。これは，人工透析や重篤な既存症のある患者さんも同様です。 本邦は超高齢社会となり，これらの基礎疾患を併存したがん患者さんも多く，当該記事の結果は，当院ががん以外の疾患の治療も必要な患者さんも多く受け入れていることを反映した結果とも考えられます。

過去30年間に当院で治療を受けた胃がん患者さんの治療成績は以下のとおりで，ベスト15の施設と遜色がないことをお知らせします。

〇1990-2019年　2024例【5年全生存率】

【肺がん生存率】

前述のように，「全生存率」 は，肺がんおよび肺がん以外での死亡を含めた全死亡のデータから算出されます。したがって，当院のような地域の基幹病院として，がんだけでなくその他の基礎疾患を有する患者さんを多く診察治療している病院では低くなる傾向があります。さらに，当院において，肺がんのステージ（進行度）におけるステージ I 期（早期）の患者さんの割合が拠点病院全国平均に比べ低く（拠点病院全国平均41% vs 当院29％），手術治療の患者さんの割合も低い（拠点病院全国平均46％ vs 28%）傾向にありました。これは当院が手術適応のない進行がん，高齢あるいは重い合併症のために手術が出来ない患者さんも多く診療して出来る限りの治療を提供していることを反映しているものと考えられます。 当院は特定機能病院，三次救命救急医療機関として高度な医療を提供する一方で， 日大板橋病院の名前が示すように，終末期医療を含めた地域密着型の医療も積極的に提供していると自負しております。また公表されたデータは2012～2013年に診断された患者データであり，現在の肺がん診療レベルを必ずしも反映しているものではありません。

当院の理念である「すべては患者さんの利益のために」をモットーに，当院は今後も最新の診療実績データを公表し，がん診療に最善を尽くしてまいります。

皆様のご理解をよろしくお願い申し上げます。