子宮頸がんについて
概要
子宮は妊娠時に胎児を育てる体部と腟から病原体が侵入するのを防ぐ頸部に分かれています(図)。子宮がんには子宮頸部粘膜に発生する子宮頸がんと子宮体部内膜に発生する子宮体がんがあり,二つは異なる疾患です。
多くの子宮頸がんは性交渉を介してヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸部に感染することをきっかけに発生します。現在では国の定期接種として小学校6年〜中学校3年までの女の子が公費でHPVワクチンを受けることができます。しかしワクチン接種をしていない場合は性交渉経験がある女性のほぼ全員が人生に一度はHPVに感染すると報告されています。多くの場合,ウイルスは免疫の力で排除されるので子宮頸がんを発症する女性はHPV感染1000人に対し1〜2人です。しかし誰がその1000人の1人になるかを知る方法はありません。
HPVが子宮頸部に感染してもすぐにがんを発症する訳ではありません。ウイルスに感染した細胞は数年から数十年かけて徐々に変化しがんに至ります。そのため定期的な子宮頸がん検診を受けることで早期がんやその前段階(異形成)を発見し早期治療に結びつけることが出来ます。一方で子宮頸がんは進行するまで症状が出ないことが多いので,症状が出てから発見された場合には治療が難しいことが多いのです。
子宮頸がんの最大の治療は「がんにならないこと」であり,そのためにはセクシャル・デビュー前のHPVワクチン接種に加え定期的な子宮頸がん検診が勧められます。
治療法
子宮頸がんの治療法は進行期によって異なります。下記に標準的治療を示しますが,実際の治療方針はがんの組織型や患者さんの年齢や体調などにより調整します。
1)妊娠・出産の希望がない場合
① IA期(顕微鏡レベルのがん)…子宮全摘術を行います。
② IB期〜II期(子宮に限局あるいは周囲組織に軽度進展)…子宮周囲の組織と骨盤リンパ節の摘出(郭清)を追加した“広汎子宮全摘出術”を行います。がんの広がりによっては術後に放射線治療を追加します。
③ Ⅲ期~IVA期(子宮周囲の組織に広く進展)…手術で摘出しきることができないため,放射線治療を行います。健康状態に問題がなければ抗がん剤を併用します(同時化学放射線療法)
④ IVB期(遠隔転移がある場合)…抗がん剤治療を中心とした治療を行います。
上記のように進行した子宮頸がんでは単独の治療法だけでは不十分であり,手術,放射線治療,化学療法,疼痛緩和ケア,患者支援(精神的・社会的支援)を組み合わせた集学的治療が重要です。そして高度な就学的治療には正確な画像検査や病理検査が必要です。当院には婦人科腫瘍,放射線治療,がん薬物療法,放射線診断,病理診断の専門医が常駐しています。さらに腫瘍センター(外来化学療法室),緩和ケアチーム,がんリエゾンチームやがん相談支援センターなどのがん治療支援体制が整備されており,多職種による連携を密にしながら子宮頸がん治療にあたっています。また当院ではリンパ浮腫保険診療医とリンパ浮腫認定看護師によるリンパ浮腫外来を開設しています。当院の患者さんで生活に困るような高度のリンパ浮腫を経験する方は少ないですが,希望がある患者さんに対しケアを行っており,また他院で発症した術後リンパ浮腫の患者さんも診察しています。
2)妊娠・出産の希望がある場合
将来の妊娠・出産を希望される場合には子宮を温存する術式(妊孕性温存術式)を検討します。ただし患者さんの病状状況によりお勧めできないことがあります。また妊孕性温存術後は妊娠と出産に特別な配慮が必要です。当科では生殖医療や産科のチームと連携し患者さんのライフプランに寄り添った医療の提供を目指しています。
① IA期(顕微鏡レベルのがん)…子宮頸部のみを部分的に摘出する円錐切除術を行います。摘出した組織を顕微鏡下で詳細に観察し(組織病理検査),完全に摘出されているかを評価することが重要です。
②IB期(子宮頸部に限局したがん)…子宮体部を残し,頸部のみを摘出する(広汎)頸部摘出術を行います。当科では2016年に本術式を導入し,2022年末までに41件を実施しています。手術の概要については下記の教室サイトを参考にしてください。
https://www.nichidaisanfujinka.com/blank-12
教室スタッフ紹介リンク
https://www.nichidaisanfujinka.com/blank-14